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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2021-12-06 【合法的経歴詐称プログラム】

先日たまたま、リドリースコット監督の映画を立て続けに2本視聴したのでございます。『ブレードランナー』と『ブラックレイン』。ロサンゼルスの近未来と1989年の大坂の夜景が、ほぼほぼ同じ様なテイストで描かれておりました。どちらにも共通するのが、画面中に日本語(らしき文字)が散乱すること。アメリカにとって日本が「脅威」だった時代の映画たちでございます。

『ブレードランナー』には、「レプリカント」というアンドロイドが登場いたします。自分は人間だと思い込んでいたあるレプリカントが、自分の過去の記憶は「出荷時」に刷り込まれたものなのだと知ることから、この映画はスタートいたします。そして、ハリソンフォード演じる主人公は人間だったのか或いはレプリカントだったのかという謎は、制作後40年足らずが経過しておりますが、今なお語り継げられております。

さて、『ブレードランナー』を見てワタクシの中でリンクしちゃったのが、朝日新聞デジタルの以下の記事でございます。今は厚生労働省で働くある女性が、児童養護施設出身だということで修学や就職で苦労し、ずっと「小さなウソ」をつき続けて来たという記事でございます(有料記事なので参考までに)。


隠し続けた生い立ち 施設で育ち、厚労省職員になった女性が話す理由
(朝日新聞デジタルより)
https://digital.asahi.com/articles/ASPD345LSPCTUTFL00N.html

彼女と母親・妹・弟が父親から夜逃げしたのは、彼女が小学4年の時。父親の暴力が原因でございました。各地を転々とした後、都内の児童養護施設で生活するようになったそうでございます。バイトで自立資金を貯め、国立大学に入学。そして今は厚生労働省の職員をされているそうでございます。そんな彼女が一番苦労してきたこと、それは、「自分の過去」を語ったり書かなければならなかった時でございます。

友人同士の「どこ出身?」なんて気楽な会話でも、「施設」とは言えず小さなウソをつくことになる。ひとつウソをつくと、つじつま合わせでウソを重ねていくことになる。他人の信頼を裏切っているという背信感と、自分が何者か分からなくなるという孤独感にさいなまされることになる。施設を出た後は自立を強要されるので、仲の良かった施設の職員に気軽に相談するということも難しくなるそうでございます。

そして、就職活動の時に、「施設出身」というどうにも越えられない壁を彼女は実感することになるのでございますよね。生い立ちや緊急連絡先の「施設」という語に企業側は過剰に反応、怪訝(けげん)な顔をされる。面接で親の事を聞かれても即答が出来ず、面接官に叱責される。就活に行き詰まり、大学は休学、大学の寮を出てお部屋を借りようと思ったら、今度は、「親以外の保証人は認められない」と言われてしまう。

ただね、捨てる神あれば拾う神あり。「公務員になって、自身のその経験を活かしなさい」とアドバイスする人に巡り会うのでございます。彼女、公務員試験の勉強を始めます。「施設で育った人が不利益を受けないような制度を作りたい」というのが彼女の新しい目標になったのでございます。目標がこれですから、自分の生い立ちも思うままに話せる様になる。すると事態は180度好転。現在は厚生労働省に入って2年目になるそうでございます。

と、ここまでが新聞記事の概略。前置きが長くてゴメンチャイ。児童養護施設ってのは、別に悪いことをやって入れられた訳じゃなく、理由が有って親の庇護が受けられない子供たちが生活する施設ってだけの事。けれど、やはり世間の中には色眼鏡で見てしまう人たちも居るようでございます。世の中が理解を深めるというのが理想ではございますが、人の価値観を変えるというのはなかなかに時間がかかるものでございます。

そこでッ! ワタクシ、思考が『ブレードランナー』とリンクする訳でございます。レプリカントに虚像の記憶が刷り込まれたように、施設出身の彼女の様な人たちにも、「虚像の履歴」を作ってあげるのでございます。保険証や役所の書類なども作り込む。そしてこれを、法律的に整備してしまう。「そんな映画みたいな事が」と言われそうですが、これはアメリカの「証人保護プログラム」の様な物でございます。

アメリカでは、犯人からの報復を避けるため、裁判の「証人」となった人に全く別の名前・社会保障番号・パスポート・運転免許を与え、全く別の土地で生活をさせるという仕組みがございます。そこまで大がかりでなくてもいいので、せめて施設に居た間の「架空の履歴」を与えるということは出来ないでしょうかねぇ。履歴書に「ウソ」を書けば「偽造」になってしまう。しかし法律的な裏付けが有れば、それは「認められたウソ」ということになる。

実に「詭弁的」な処置となってしまいますが、「世の中の理解」が追いつかない今、その不理解に対する隙間を埋める「こじつけ」でもございます。まずは、不理解に苦しむ人たちの救済を最優先。その後、理解が追いついてくれればそんな制度は必要なくなる。こんな風に考える次第でございます。

まぁ、「保護プログラム」というのは、夫の暴力から逃げている人たちには用意して欲しいなぁ。今の日本の役所のやり方では、担当者の注意力に委ねている状態でございます。忙しい業務の中、暴力旦那が本気で職員を騙そうとしたらイチコロでございます。「新しい戸籍」を与えちゃえば、「役所の職員ですら分からない」という状態になりますからね。

というところで、長くなってきたので今日はこの辺で。最後までおつき合い、ありがとうございます。そして、インターバルの開いた更新を、お詫び申し上げます。


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