«前の日記(2021-03-09) 最新 次の日記(2021-03-11)» 編集

薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

2008|05|06|07|08|09|10|11|12|
2009|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2010|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2011|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2012|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2013|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2014|01|02|03|04|05|06|07|08|10|12|
2015|01|03|12|
2016|01|02|03|05|06|07|08|09|10|11|12|
2017|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2018|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2019|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2020|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2021|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2022|01|

2021-03-10 【ちょっと前なら覚えちゃいるがぁ...】

今日はちょっと重箱の隅を突くようなお話。ある家電メーカーから、新製品の紹介メールが届いたのでございます。さてさて、どんな新機能が有るのかなと、そのメーカーのサイトを訪れる。「新旧機種の機能比較」なるページがございまして、そのページを見たときに、ワタクシ、奇妙な違和感に襲われたのでございます。

「新機種」と「前衛機種」と書かれてある。ん? 「前衛?」、なんじゃこりゃぁ? 新機種と前衛機種、いったいどちらが新しいんだ? 新機種というのは普通に新しく、前衛機種ってのは画像をアートにしてしまう最先端の機能でも搭載しているのか? 頭の中は「?」と「違和感」だらけになっておりました。

文脈を見るに、どうやら「前衛機種=古い機種」という意味らしい。ここで「=前の機種」と書かなかったのには、ある意図がございます。今日は、その「前」という漢字がテーマ。日本語の独特な曖昧さは、この「前」という漢字にも時空を超越した意味合いを持たせているのでございます。

「前衛機種」で検索すると、メーカーサイトの他では、あるエンジニアさんのブログがヒットする。そのエンジニアさんも、ワタクシと同様に、前衛機種という語に違和感を感じている様子でございます。で、そのブログの日付が2007年になっている。この前衛機種という語、すでに14年前には使われていたということですねぇ。ワタクシが今さら気づくということは、それほど広まってはいないということでしょうか?

ここで話をややこしくしているのは、「前」という漢字が正反対の二つの意味を含んでいるから。「前に進む」といえば先に進むことになる。時としてこの言葉は、未来へ進むという意味合いに取れることになる。逆に「3日前」なんて語では過去を表す言葉になる。「前」という漢字は、未来と過去、その両方の意味合いを含んだ、時空を超越した漢字なのでございます!

「以前の機種」としたときの「前」という字は明らかに「過去」を指し示しております。ところがドッコイ、「前衛」という語は「最先端」という意味。つまり、この場合の「前」という字は「未来」の意味合いで使われているのでございます。前衛機種という語は、本来、未来を指し示す意味の単語が過去を示す意味合いで使われている、これが大きな違和感の原因なのでございます。

さて、ここまでくると、「ほんと、日本語って曖昧で困るなぁ」と思われるかもしれませんね。ところがドッコイ(本日2回目)、英語にも同様の混乱が若冠有るのでございます。それが、「forward」という単語。「前進的」みたいな未来に向かう意味合いで使われる単語ではございますが、ことプログラミングの世界ではふた通りの意味に使われているので要注意なのでございます。

「forward declaration(前方宣言)」と「forward reference(前方参照)」。

「前方宣言」とは、プログラムの冒頭で様々な取り決めを宣言しておくこと。一番最初にこれを宣言しておかないと、後からコンピュータに「そんなの、聞いてないぞ」と叱られることになる。「先だって宣言しておく」という意味ですから、実際に取り決めが使われる位置から見ると、プログラムの中では「過去」を指し示す語になるのでございます。

さて、もうひとつ、前方参照。これは、プログラムのある位置において、「この先で(多分)記述されている、コレコレという取り決めを使うよ」ということ。コンピュータはこれを見つけると、「チョ、待てよ、今、見てくるからさ」とプログラムの先を確認しに行く。この場合は、「未来」という意味で使われております。

英語ってのは、過去形とか未来形とかが細かい言語。にも関わらず、プログラミングでの前方宣言と前方参照では、逆の意味にも関わらず、どちらも「forward」という単語が使われている。プログラム言語が進化する過程で、多少の混乱や因襲があったかもしれませんね。

ということで、今日は、過去も未来も超越した「前」という漢字の不思議な世界をご紹介したのでございます。日本人は文脈で意味を感じ取っていますが、外国人とか、これ、悩みそうだなぁ。では、では。


«前の日記(2021-03-09) 最新 次の日記(2021-03-11)» 編集