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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2020-08-17 【六十を前にして惑わされっぱなし】

日本大好きな外国人ロックギタリスト、「マーティー・フリードマン」をご存じでしょうか? バラエティ番組などにも時々出演しておりますので、顔を見れば「あぁ、この人か」と分かるはずでございます。そのマーティーが日本好きになったきっかけを、彼自身がYoutubeで話しておりました。そこで彼が披露したのが、エレキギターで弾く『リンゴ追分』でございます。


マーティ・フリードマン 日本好きになったきっかけ~『リンゴ追分』超絶プレイ!!
https://youtu.be/JF7Ik2cnZtw?t=240

驚愕したのは、彼の耳の良さでございますね。ギターで奏でる彼の『リンゴ追分』は、そのコブシや独特なビブラートなど、全く「美空ひばり」さんのそれを完璧にコピーしているのでございます。これはすごい才能ですよ。NHKがコンピュータで美空ひばりを再現するという企画がございましたが、それよりもマーティーの方が「美空ひばりっぽい」というのも驚きでございます。

その美空ひばりさんはというと、これまた似たような逸話がございます。あの美空ひばりがスタンダードナンバーの「スターダスト」を歌っているのでございますが、これがまた、「ナット・キング・コール」の歌うそれと全く同じ。多分、ナット・キング・コールを聞いて耳コピーされたのでしょう。一節には、美空ひばりさんは楽譜を読めなかったとか。いやぁ、これだけの才能があれば、楽譜は必要ありませんよ。


美空ひばり スターダスト 1965 / Stardust
https://youtu.be/HILh7hE5P3k

でね、楽譜が読めない、と言うか、一度も楽譜を見たことがないピアニストがいらっしゃいます。「辻井伸行」さんという盲目のピアニストでございます。17才という若さでショパンコンクールの「ポーランド批評家賞」を受賞という才能の持ち主。Youtubeとか覗いてますと、彼の演奏がゴロゴロ転がっております。こりゃぁCDが売れなくなるはずでございます。

ワタクシが彼の演奏を聴いていて感じるのは、「小節」を感じさせないということ。小節というのは、4拍とか6拍ごと(など)で楽譜を区切る単位でございますね。なまじっか「楽譜」で曲を覚えていると、音楽を「ビジュアル的に思い出そう」としてしまう。頭の中に楽譜を描いてしまうのですよね。その結果、無意識のうちに「小節」「フレーズ」といったひと区切りでまとめようとしてしまうのでございます。

多分、辻井伸行さんの頭の中には、楽譜は無い。耳で聞いたものをそのままダイレクトに覚えているのでしょう。彼の頭の中では、どんな感じで音符が拡がっているのでしょうねぇ。青空に浮かぶ雲の様に見えているのか? あるいは大海原に波打つ無数の起伏の様に見えているのか? まぁこんなのも、目が見える人間の想像でしかありませんよね。

辻井伸行さんは、「吐き出すように」音楽を奏でる。止めどなく奏でる。それを聴いている聴衆は、その間中、止めどない滝の水に打たれているような感触に陥る。小節やフレーズでまとめるなんて小さな事はせず、ひとかたまりの音楽をぶつけられている感触。「芸術は爆発だ」という岡本太郎さんの言葉が頭をよぎる。楽譜ではなく、耳で曲を覚えているからこそ到達した境地なのかも知れませんね。

ワタクシは自分でピアノを弾くとき、そもそもピアノでは必要ないことなのですが、それでも息継ぎといった呼吸法を考えながら演奏しております。管楽器奏者(フルート)の性(さが)なのでしょうかねぇ、その「息づかい」こそが曲に乗って伝わっていくんだという自分なりの信念があるからでございます。

ところがですね、「どこで息してるんだ?」と思わせるような辻井伸行さんの演奏を聴いてますと、その自分の信念が揺らぐわけですよ。人間、白髪も増えてきてそろそろ枯れてこようという時期に、自分の信念を揺らがすような新しい息吹をまた感じるという驚愕。四十にして惑わず、五十にして天命を知るとは申しますが、十分に惑わされております(笑)。人生というのは、なかなかノンビリさせてくれませんねぇ。では、では。


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