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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2019-12-29 【オレと言わなければならなかった訳】

いつもは1人称を「ワタクシ」と書いているこのコラムですが、今日の1人称は「オレ」でございます。ワタクシがまだ小学生で、自分の事を「オレ」と言っていた頃のお話でございます。


それは或る日の午後、1日の授業も終わり、担任の先生の合図で終業の挨拶を交わした直後のことだった。その女性の先生、悪気は無かったのだろうが、ある連絡事項を不用意に児童全員の前で、口に出してしまった。

「K子さん、先日の検便検査について、保健室の先生が来て欲しいそうです」

それを聞いて、ほぼクラス中がK子に向かって、「やっぱり、何か腹の中にいる」「ばい菌だ!」「きったねぇ~」という声が飛び交った。先生は気まずそうな顔で成り行きを見守るだけ。かのK子はと言うと、斜め下を向いたまま、じっと唇を噛んで黙っていた。

そのK子、普段からややイジメの対象となっていた。家が貧乏なのか、着ている服に少し清潔感が欠けるところがある。そんなこともあったので、検便の話題が出たときには、ほぼクラス中の男子が「ほら見たことか」と騒ぎ出すはめになってしまった。ただ、オレだけは、その騒ぎの理不尽さに、子供ながらにむしろ腹を立てていた。

オレはなぜ、自分のことを「オレ」と言っていたか? それは、バレないためである。何がバレないためか? オレの中にいる「女」の存在がバレないため。

幼少期から、オレは自分の心の中に潜む「女」を自覚していた。でも、それは絶対に他人に悟られてはいけないことであった。悟られたが最後、「オトコオンナ」「気持ち悪い」といった罵(ののし)りの言葉で、心底傷つくことになるから。そういう時代だったのである。

そう、オレは、潜在的に「K子側の人間」なのであった。

オレはやや距離を置きながら、K子を見守った。恋愛感情などないから、距離を縮めるつもりも無いし、逆に向こうから縮められても困る。そうやって、小学校高学年の2年間が過ぎていった。

よくイジメられていたK子であったが、もしかしたら、オレが時々投げかけるささやかな微笑みを心の支えとして、イジメを生き抜き、卒業していったのかもしれない。


病院で治療を受けている京都アニメーションの犯人が、「こんなに優しくされた事は初めて」と病院のスタッフに感謝の弁を述べたそうでございます。彼は人生の中で、一度も、誰からも、優しくされた事が無かったのでしょう。

もし、彼の人生の中の、どこかで、誰か1人でもいい、彼に微笑みかける人物がいたとしたら、京都アニメーションの被害者は死なずに済んだかもしれない。新聞の記事を読みながら、そんな事を思った日曜日でございました。


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