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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2019-08-02 【この長さは、キツイなぁ】

いろいろ話題の朝ドラ「なつぞら」でございますが、主役の広瀬すずが、毎週どこかで、「涙ながらに長ゼリフを吐く」という恒例の見せ場シーンが盛り込まれております。それがね、時々、何を伝えたいのか分からない場合がございます。そんな時ワタクシは、台詞を全部拾って文字に起こしたりいたします。文字として読んでいると、脚本家の細かい意図が見えてくるのでございます。

今週の長ゼリフは、喫茶店での別れ話。広瀬すず演じるアニメーターのなっちゃんを「女」、なっちゃんが描くアニメの演出をしていた恋人を「男」と省略させていただきますよ。長ゼリフのあらましを、サラッとご説明いたしましょう。

男は演出家としての我を押し通して革新的な長編アニメを製作するも、興行的には最低の出来。それを理由に、女に「結婚できない」と告げるのでございます。仕事と結婚は別でしょと女は詰め寄りますが、男は「君を演出で生かせられなかった僕には、君を幸せにする才能はない」という言葉を発してしまう。

この言葉から、男女の想いのすれ違いが始まるのでございます。女は「いつ、男を好きになったのか?」と記憶を辿り始める。そして、男のある言葉に思いつくのでございます。「アニメとは、有り得ないことも本当のように描くこと」、女は「私は、その言葉に恋をしたんです」と告白する。

女は、戦争孤児だった自分が、温かい家庭や北海道の大自然に囲まれ、様々な出会いにも恵まれ、そして東京でアニメーターになれたのまでを、「有り得ないような幸運」と話し始めるのでございます。その「有り得ない」という語を重ねていくうちに、「あなたを好きになったの、有り得ないくらいに!」と男に自分の想いをぶつけてしまうのでございます。

女は自分語りの中で、男の才能ではなく、男の言葉を、男の生きる力を好きになっていたと悟るわけでございますが、同時に、才能や作品の出来でしか愛情を語れない男の言葉に幻滅するわけでございます。そして、「好きじゃないことを、才能のせいにしないで下さい」と捨て台詞を吐き、「さようなら」と別れを告げ、立ち去っていくのでございます。


文字に起こしますと、脚本家の細かい思い入れが見えてくるのでございます。この男女は、「有り得ないような幸運を体験してきた女」と、「有り得ないようなことをアニメで実現したい男」との出会いだったのでございます。その二人に行き違いが生じたのは、男と女の感覚の違いではないでしょうか?

「男は脳で恋をする」と申します。男の恋には、「理屈」が必要なのでございます。ここで思い出されるのが、なっちゃんが育てられた家庭の娘の夕見子が駆け落ちしたときの言葉、「同志」でございますね。男は自分の恋人であるなっちゃんを、「同志」としてしか説明出来ない。そんな不器用な説明には、男のもどかしさばかりが残るのでございます。

それに対し、「女は子宮で恋をする」のでございます。より直情的に、より本能で無条件に恋愛をするのが女。これは、母性本能の成せる技なのでしょうねぇ。この女の本能に加えまして、男の本意を探れるまでには、女は若すぎた。切ない、切ない、男と女の行き違いなのでございます。

脚本を文字で読み進めますと、まぁこんな分析に至るわけでございますね。そして、この長ゼリフ、ちょっとテクニカルでございまして、自分に呟くセリフ、相手に投げかけるセリフ、これを明確に言い分けないと、「今のセリフ、誰に言ってるの?」となってしまう。

男の「結婚できない」という語から始まる会話の中で、女は「疑問・落胆・模索・ときめき・懐古・告白・決別」という感情の流れが有る。また、単調な自分語りを間延びすることなく一気に吐きつつも、その中で何度も繰り返される「有り得ない」というキーワードをどうやって際立たせるか? この別れのシーン、結構にテクニカルで準備に時間のかかる長ゼリフなのでございます。

これはワタクシの、ほんと勝手な想像でございますが、広瀬すずさん、十分な準備が出来ず、この長ゼリフでカンペを使っていたのではないかなぁ? 映画などでは良い演技をしている広瀬すずさんですが、この朝ドラでは時々、「やっつけ」を感じるシーンがございます。朝ドラ特有のハードスケジュールの影響なのでしょうか?

最後に、ワタクシが文字に書き起こしたその長ゼリフを画像で紹介いたしましょう。A4用紙の下方、赤カッコのビッシリと文字が続く部分が、広瀬すずが延々と涙ながらに語る長ゼリフでございます。台本だと、めくっても、めくっても、自分のセリフでビッシリ埋め尽くされている感じでございましょうね。

ということで、この別れ話の顛末はどうなるのか、今から土曜日の放送をワクワクなのでございます。しかし、ハードスケジュールの朝ドラで若い女優さんを起用する場合は、撮影期間をもっと長く取ってあげられないかなぁ。もっとも、次の次の話からは週5話になるそうですから、少し緩和されるかな。名古屋薫の朝ドラ分析でございました。


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