店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです
面接にいらっしゃる方の多くが、「パス度」というのを口にされます。「初耳だ!」という人のためにご説明いたしましょう。ニューハーフ・女装の場合、いかに「女性としてみられているか」という度合いのことでございます。オナベ・男装の場合は、その逆でございますね。
実はね、当店の様なお店で働くには、この「パス度」ってのは必ずしも重要では無いのでございます。まぁ、そりゃぁ、より女っぽい方が有利って言えば有利でございますよ。ただ、パス度を気にするあまり、商売上のもっと大切なことを見失うってことも有るのでございます。
よくワタクシはこの話を、「歌手」に例えて新人さんにお話したりいたします。歌がうまいからと言っても、必ずしもそのCDが売れるとは限らない。つまり、「女に見える」ということと、「お客様がお金を使ってくれる」ということとは、別次元なのでございます。
ここで、「パス度」に関する落とし穴が二つございます。実は、お化粧やファッションを「地味」にした方が、パス度は上がるのでございます。そう、目立たなくして一般社会に「埋没」する様にするのでございます。パス度を気にすると、地味なイメージに傾斜していくという落とし穴がひとつ目。
もうひとつは、今の時代、一般社会が異性装に対して寛容になっているためにパスされやすくなっているという落とし穴。「あ、この人、男かな?」と思っても、今の人はそう驚かない。明からさまに嫌な顔をする人もいなくなった。つまり、バレてるけどそれが顕現(けんげん)しないので、相対的にパスしやすくなっているのでございます。
さて、年寄りが昔話をすると嫌われるものでございますが、ワタクシがニューハーフに成り立ての頃ってのは、まだまだ異性装に対する「差別」は酷かった。明からさまに嫌な顔をする人、ばい菌かウ○チを見るかの様な目で睨む人、そんなのが当たり前でございました。いやぁ、ワタクシも散々嫌な思いをしたものでございます。
そういう環境で鍛えられたニューハーフは、パス度よりも「世間を納得させる」という方向性に走るのでございます。「並みの女以上に綺麗になる」というのが、そのひとつの方向性。そしてもうひとつ、今で言うオネエキャラの様な飛び抜けたイメージを持ち、「私はこれで商売しているのだからほっといて!」と世間を納得させる方向性でございます。
数十年前のニューハーフブームというのは、そういった社会の偏見や差別に育てられたという意味合いも大きいのでございます。ある意味、パワフルでございました。そして、「この世界でなければ生きられない」という覚悟と開き直りもございました。ニューハーフが「文化」と呼ぶに足る時代であり、その特殊性からお金儲けが楽だった時代でもございます。
嫌われないうちに、お話を現代に戻しましょう。LGBTなんて語が持てはやされまして、今や十分に市民権を得ている感がございます。ファッションで女装をする人も増えました。そこで注目されるのが、冒頭で申し上げた「パス度」になるわけでございます。