店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです
西城秀樹さんのネタが続いちゃいますが、iTunes ストアで西城秀樹さんの曲を懐かしく物色しておりましたら、こんな名曲を失念していたことに気がついたのでございます。『勇気があれば』、1979年リリースのバラード系の曲でございます。ちょうど手元に楽譜がありますので、お見せしましょう。
今日のお話は、この『全音歌謡曲大全集』のお話。写真では、本の厚さを見せるために、ちょっと角度を付けて撮影しております。この大全集が、結構お高い。1冊7,000円前後。歌謡曲、演歌、J-POPなど、出来うるかぎりに幅広く網羅されており、5年に1度程度のペースで新刊が発刊されております。
さぁて、どうしてこの本はこんなにお高いのでしょう。収録曲の多さも関係しているでしょうが、それ以外に、この本の楽譜の品質が、かなり影響しております。イントロ・間奏・エンディングを完全に楽譜に起こし、オブリガードと呼ばれるサブメロディも小さく書き入れ、歌詞は漢字縦組の通常の歌詞だけでなく、楽譜の中にも1番から最終番まで書き込んであるというご丁寧さ。そして多分、この楽譜起こしは職人さんの手作業なのでございます。
「耳コピー」というやつですな。職人さんが発売直後のレコード(CD)を聞いて、楽譜に起こしていくわけでございます。そして、省略せず、イントロから間奏、エンディングまで完全コピーしてあるということは、楽譜が読めて演奏できる人なら、原曲を知らずにいきなり楽譜を見ても、ほぼ原曲に近い演奏なり伴奏が出来てしまうのでございます。
このチョイト高めの本、いったいどんな人が買うのか? カラオケ教室の先生や、趣味でカラオケの自習をしたいという人には需要が有ったのではないでしょうか。また、資料としてもクォリティが高いですので、歌謡曲・音楽全般を研究されている方にも重宝したと思われるのでございます。まぁ、ワタクシの様に、ホステスがお客とのデュエット予習のために買ったりもしたでしょうしね。
さて、「流(なが)し」という職業をご存じでしょうか? ギター1本を抱えまして、夜の酒場、飲食店に片っ端から飛び込んでいくのでございます。お客として入っていくのではなく、その店にいるお客に歌を聴かせる、あるいは客の伴奏をしてチップを貰い歩く、そういうご職業でございます。まだ飲食店にカラオケなんか無かった時代には、かなり多くの「流し」の方がいらっしゃいました。
多分、流しを専門職としてやられている(た)方は、耳コピーで新しいレパートリーを増やしていかれたのだと思われます。ただ、最初から楽譜に起こしてある本が有れば便利ですから、当然、この「歌謡曲大全集」も購入されたのではないでしょうかねぇ。
そして、夜の街にカラオケが台頭するに至り、流しという職人さんは淘汰されていき、今やほぼ絶滅の状態。著作権もシビアになってきたので、よけいにやり難くなったでしょうねぇ。ワタクシ、かなり「流し」という職業に肩入れしておりますが、それは、その音楽的即興能力の高さを敬するということもございますが、それに加え、子供の時に同級生の父親が流しだったというのも影響しております。
小学生の低学年の頃、父子家庭の友達がおりました。ワタクシの家が母子家庭というのもあって意気投合、よくつるんでおりました。ただね、ソイツ、絶対に親父の職業を言わないわけでございます。で、ソイツの家に遊びに行くと、いつも「親父が寝ているから静かに」ってソイツが言うわけですよ。ですから、遊び道具だけ持って外で遊ぶことに。子供ながらに、「不思議な家だな」と思っておりました。
ただね、度重なるワタクシの追及に、とうとうソイツがポロッと打ち明けるわけですよ。「俺の親父、流しなんだ」って。流しという職業を、ずっと「恥ずかしい」と思っていたみたいでございます。これがねぇ、当時のワタクシ、「流し」という語を知らなかったので、リアクションゼロ。ソイツの家の中の状況、昼間から寝ている親父、流しという職業、それらの駒が頭の中で組み上がったのは、ワタクシがもっともっと成長した後でございました。
6畳ひと間のボロアパートがソイツの家でございました。まぁ、ワタクシの家も同様ですからお互いさま。で、ソイツの家に入ると、奥で親父が寝ているので、昼間から薄暗いわけでございます。その薄暗さの中に、ひときわ輝くものが! 当時としては珍しく、かつ相当高価であったでっかいオープンリールのテープレコーダーが、ボロアパートとは実にミスマッチングな趣で置かれていたのでございます。
汚いぼろ屋へ入っていくと、そこは最新鋭の地球防衛軍の基地だった! 子供ながらにそんな心境でございました。それくらい、その薄暗さの中で鈍く光るアルミ製リールは近未来的であり、いくつものツマミやメーターはワタクシの子供心をくすぐったのでございます。とっても、とっても、触りたい心境に駆られましたが、それはソイツから、堅く、堅く、戒められておりました。ソイツ、迂闊に触って、親父からド叱られたのでございましょう。