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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2017-09-17 【地獄の記憶力、面倒くさい】

人間の記憶とは、不思議なもの、怖ろしいもの。些細なキーワードから、何十年も前の記憶が突然思い出されるということは有るもので、つい昨日もそんなことがございました。

「こころ旅」という番組がございます。火野正平さんが自転車で日本中を走り回るという番組ですが、その特別編が昨日放送されておりました。行き先は「栃木県日光市」。そこにある、とあるダムの横を通過した時に、そのダムの名前がワタクシの記憶をほじくり出したのでございます。

「五十里ダム」。五十里と書いて「いかり」と読みます。変わった地名でございますが、この「五十里」という名前の先生がいたのでございます。高校の世界史の先生でございました。当時、見た目、70才くらいに見えたのですが、定年とかどうなっていたのでしょうか? あるいは、極端に老けて見えていたのかな。

「講釈師、見てきたような...」とは申しますが、ほんと、史実を見てきた様にお話しする先生でございました。話が脇にそれることも多く、その脇話を全部黒板に書いていきますので、ノートを取るのが大変な先生でございました。

ある日の授業、授業開始の挨拶が有り、五十里先生が黒板の方を向いた時に、ある異変に教室の生徒全員が気がついたのでございます。先生のスラックスの、後ろ両側のポケット二つが、スラックスの上にはみ出して、ダランと垂れ下がっていたのでございます。

ポケットの内袋が裏返って外側に出ているというのは、よくあること。しかしこの場合は、内袋がそのまま上に翻(ひるがえ)ってスラックスの上から見えているのでございます。しかも、後ろの二つのポケットが両方とも。グレーのスラックスの上に、白い内袋が飛び出し垂れ下がっている様は、実に奇妙。教室の生徒全員が、注目し始めたのでございます。

いったい、どういう履き方をすればそのようになるのか? 教室のいたるところで、ヒソヒソと会話が始まりました。明らかに、いつもとは違う教室の雰囲気。さすがに、五十里先生も、その教室の不穏な空気に気がつくのでございます。が、しかし、理由は分からない。次第に、五十里先生、不機嫌になっておりました。

そして、とうとう、授業時間の半ばあたり、五十里先生、怒りだします。普段は穏和な先生でございますが、その先生の怒る姿を、教室内の全員が初めて目にしたわけでございます。何が起きているかは、先生以外の生徒全員が理解している。けれど、その事情を切り出せる生徒は、誰も居ない。その後、教室の空気が冷たく固まったまま、その日の世界史の授業は終わったのでございます。

その後、五十里先生の後ろのポケットが飛び出すことは、二度とございませんでした。誰かに忠告されて、気をつけるようになったのでしょう。一方、世界史を受ける教室の空気は、それ以来、少し変わった様に覚えております。少なくともワタクシは、穏和な先生を怒らせてしまったという罪悪感をほんの少し感じておりました。

その後も、世界史の授業は何度もございましたが、ポケットの話を五十里先生が切り出すことはございませんでした。多くの生徒は、そんなポケットの出来事なんか、すぐに忘れたことでしょう。ワタクシもすっかり忘れていたつもりでしたが、昨日の放送で、見事に思い出されたわけでございます。人間の記憶ってのは、恐ろしいものでございます。

35年も前のお話ですので、五十里先生は、多分、お亡くなりになっていることでしょう。思い出してしまった事とは言え、35年も前の出来事が、ワタクシの心を小さな小さな罪悪感がチクチクと突き刺すのでございます。人間の記憶力ってのは、まぁ、面倒くさいものでございますよね。では、では。


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