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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2017-09-04 【残る言葉、残さない言葉】

今日は、「落語」のお話。立川談志さんのこんな言葉がございます。

「落語は笑いが目的ではない、落語は”手段”であり、その先にある、貧乏、飢え、人間の業、非常識、それを描くのが落語」

この言葉の後半にある、飢えとか人間の業とかは、つまり「文学性」でございます。落語が単なる「お笑い」に成り下がらず、芸能として今に伝えられている理由でございましょう。

Eテレに、落語を分析する『落語ディーパ』という番組がございます。この番組で、ドラマにも活躍されている立川談春さんの言葉が紹介されておりました。

「落語っていうのは、一回(頭の中に)入れたら外に出さないようにする。その間隔で、ずっと残るものだと思って(ドラマの)セリフを入れると、なかなか外に出て行かないので困る」

この言葉を受けて、番組の進行役の東出昌大さんが、

「役者は、次から次へへと覚えていかなければならないので、終わるとさっさと忘れます」

とのこと。同じ「言葉を扱う芸能」ではありますが、片や、頭の中に残すものだとして覚え、片や、吐き出した途端消えていくものだとして覚える。落語家さんのこの感覚、興味深かったのでございます。落語とドラマを両立させている談春さんならではの、感覚でしょう。

以上、落語のお話でございますが、これは、舞台や音楽にも似たような感覚がございます。舞台・音楽ってのは、演じた途端に消えていく芸術でございます。特にドラマってのは、同じ台本を何度も演じるということがございません。

消えていく芸術なのでございますが、時として、同じ演目や曲を何回もやることにもなるわけでございます。数回くらいのレベルですと、終わりますと綺麗さっぱり忘れちゃいます。ところが、数十回というレベルになると、今度は逆に、頭の中に残ってしまい忘れることが出来なくなる。芸能にとって、この「忘れることが出来なくなる」というのは、チョイト面倒なのでございます。

頭の中に残りすぎますと、それが「飽き」につながるのでございます。飽き、または「慣れ」と申しましょうか。これが表現の邪魔をすることがある。演者ってのは上昇志向ですから、「前回よりも良い演技(演奏)を」と常に思っているわけでございますね。

しかし、ここに飽きや慣れが関わりますと、今までと同じ事を繰り返すことが苦痛になる。変える必要のない部分まで、不用意にこねくり回したくなる。そして、迷走するということも有るのでございます。頭に残すことも必要。でも、時として、忘れることも重要だったりいたします。

最期に、もう一つ。言葉を扱う職業で「辞書編纂(へんさん)」というものがございます。広辞苑などの辞書に入れる言葉を日常生活から拾い集め、それの説明文を付け、辞書に加えるという職業でございます。その職業に携わる人が、こんなことを申しております。

「広告代理店も辞書編集者も、どちらも言葉を集める仕事。でも、広告代理店が集める言葉は、”パッと咲いたばかりの花”、”芽吹いたばかりの芽”、”散り始めた花粉”であって、今の瞬間を萌えさせ、消えていく言葉。しかし、辞書編集者の集める言葉は、地面に降り積もって土になって腐葉土になって、次の日本語を育てる土壌になるもの」

広告に使われる言葉は今をときめかせ儚(はかな)く消えていく言葉、しかし、その言葉が人間の営みの中で熟成が進み、日常生活に定着したものが辞書に採用されるということでしょう。同じ言葉を集める職業ですが、「ハシリ」と「ナゴリ」の関係になっているようでございます。

頭の中に残す言葉、残っては困る言葉、残って拾い集められる言葉、今日は、そんなお話でございました。では、では。


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