«前の日記(2016-05-30) 最新 次の日記(2016-06-01)» 編集

薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

2008|05|06|07|08|09|10|11|12|
2009|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2010|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2011|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2012|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2013|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2014|01|02|03|04|05|06|07|08|10|12|
2015|01|03|12|
2016|01|02|03|05|06|07|08|09|10|11|12|
2017|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2018|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2019|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2020|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2021|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2022|01|

2016-05-31 【本が飛ぶように売れていた、書店の黄金時代でございました】

毎週火曜日に楽しみにしているドラマがございます。『重版出来!』(じゅうはんしゅったい)というドラマでございます。主演は「黒木華」(くろきはる)さん。黒木さんの地味な見目形のせいか、今ひとつ視聴率は伸び悩んでいる様子。でも、この黒木華という女優さん、その経歴は目を見張るものがございます。日本の映画賞は受賞しまくり。特に注目を浴びたのは、ベルリン国際映画祭での銀熊賞でございましょう。

そんな受賞歴のせいでしょうか、他キャストの演技や演出など、ドラマ全体に「真面目さ」を感じるのでございます。出演者全員が「力の抜けた自然で味のある演技」に徹している、そんな印象を受けるドラマでございます。ワタクシ的には「良ドラマ」であるとは思うのでございます。しかし、昨今のドラマの風潮である「主演がアイドル」「ガチャガチャした派手な演出」という路線から逸脱していることで、数字的に苦戦しているのでしょうか?

え〜と、今日は、このドラマがテーマではございません。このドラマの舞台は、漫画雑誌の編集部、漫画家、そして書店でございます。実はワタクシ、大学時代に書店でアルバイトをしておりました。そのうち、学業よりもそのアルバイトの方に身が入ってしまい、結局、大学を中退して書店の社員になってしまうという経歴を持っております。ですので、書店が出てくるこのドラマ、自分の書店員時代を思い出したりして感慨深かったりするのでございます。

書店で働いていて驚いたのは、毎日、数百冊の本が新たに出版されているという事実でございます。毎週とか毎月ではございませんよ、毎日でございます。当然、出版されるすべての本が書店に並ぶわけではございません。問屋からある程度チョイスされて配本されてきた入荷から、書店でさらにチョイスをかけるわけでございます。並べる必要のないものは即日返本、売れ筋だと思うものは即日追加発注。書店の棚のスペースにも限りがございますからね、種々選択するのは必須の作業なのでございます。

その「出版物リスト」を毎日見ておりますと、世の中の動向が見えてまいります。ある意味、「『文化の最先端』が新規出版物に集約されている」と言っても過言ではございません。出版物のリストには「文化の発信側の動向」が集約されており、どの本が売れているかという書店での実態には「文化の受け手側の動向」をつぶさに感じ取ることが出来るのでございます。

今でこそ、ネットを見れば、その中を飛び交う大量の情報を垣間見ることが出来るのでございます。ワタクシは、そんな「情報の渦巻く滝壺の中へ頭を差し入れる」というような体験を、30年前の書店員経験で実感しておりました。むしろ、嘘や人為的操作の多いネットよりも、「出版物」と「読者」という関係の方が、より真実味が有るのでございます。これは書店に限らず、ネットがない時代の方が、世の中の「真実味」というものはより強く感じられたかもしれませんね。

ワタクシが働いていた書店はレコード売り場も併設されておりましたので、音楽に関しても、発進側と受け手側の動向をつまびらかに感じておりました。そして、従業員価格で購入できるということもありまして、お給料の多くが書物とレコードに消えていきましたねぇ(笑)。でも、青春期の感受性豊かな時期に、いい経験をした書店員時代でございました。

小さな子供がお金を握りしめて、発売日に息せき切って『ドラえもん』や『ジャンプ』を買いに来る姿。お母さんが子供に読ませる絵本を、切々と選ぶ姿。仕事に関する本、健康に関する本、そういった実用書を買っていく人々の姿...書店には、世の中全体の縮図も現れております。そんな方々の姿を書店のカウンターの内側から見ていた経験が、今のワタクシの大きな財産になっております。では、では。


«前の日記(2016-05-30) 最新 次の日記(2016-06-01)» 編集