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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2014-02-18 【初心忘るべからず】

ベルリン国際映画祭で、「黒木華(はる)」さんが銀熊賞を受賞したのでございます。この女優さん、「上手いなぁ」と思う役と「なんて大根!」と感じる役が有ったりして、相手役とか監督・演出家しだいで変わっちゃう人なんでしょうね。まぁ、受賞したことですし、これからは良い環境に恵まれて飛躍していくのではないでしょうか。

「華」とかいて「はる」と読ませる名前、変わっているのでございます。「あの人は華が有る」なんて言い方をする時に使う漢字でございます。現代語では、「はなやかさ」を意味する時にはもっぱら「華」の漢字をあてがうことが多いのですが、この「はなが有る」という表現の創始者、世阿弥は、「花」という字を当てております。600年ほど前に書かれた『風姿花伝』という書物にて、「(植物の)花」「(能楽の)感動」「珍しいもの」、これらは同じものだと説いております。

その世阿弥の言葉で、もうひとつ有名なものがございます。「初心忘るべからず」という言葉、よく使われますよね。これも『風姿花伝』で書かれております。現代的にはこの言葉、「最初の頃の初々しい気持ちを忘れないように」なんて解釈をしておりますが、世阿弥が書いた「初心」の核心は、ちょっと違っております。人生の節目節目で対面する困難に対して立ち向かうための“新しい心構え”、それを世阿弥は「初心」と申しております。節目節目と言うくらいですから、世阿弥のいうところの「初心」は、人生の中で何度か訪れるのでございます。

世阿弥言うところの初心忘るべからず

世阿弥は、人生には3つの「初心」が有ると申しております。一つ目の初心は17〜18歳のころ。そう、声変わりの時期でございます。この声変わりが役者にとっては大きな難関になりますし、この声変わりで、今までの修行が一度リセットされてしまうと言っても過言ではございません。その難関に対処する新しい心構え、それが第1の初心でございます。

次に訪れる初心は24〜25歳ごろ。一つ目の初心を乗り越えた者にとっては、高度成長期になっているはずでございます。ただし、この年齢での活躍は、世阿弥が言う所の「時分の花」。つまり、たまたま若いから売れているだけということでございます。この時期に慢心せず「本物」を追及する心構えが出来るか、それが第2の初心でございます。

さぁ、三つ目。最後の初心は34〜35歳ごろ、人生の頂点でもあり、人生の峠でもある時期でございます。この年齢を人生の頂点とするならば、その後はただ下るだけの人生。今までひたすら登ってきた者が、いざ下り坂に向かい合った時にどう自分を客観視して“老いの美学”を追及していくか、その心構えが最後の初心なのでございます。

さてさて、長々と世阿弥の「初心」を解説してまいりましたが、この600年前に書かれた演劇論が、今でも十分に通用してしまうというのは、実に驚きなのでございます。特に、ニューハーフの世界でも、いろいろと当てはまってしまう。ということで「ニューハーフにおける初心」を語ってしまうのでございます。

ニューハーフにおける初心うんぬん

まず最初の初心、それはニューハーフデビューした時でございましょう。17〜18歳でデビューする人も多いでしょうが、中には20代・30代でデビューする人もございましょう。ニューハーフという“お仕事”を選択するにあたり、それまでの生活が大きく変化するわけでございます。実家に帰れなくなる人も、いるかも知れません。この時期を起点として、趣味ではなくお仕事として行動するための大きな心構えが必要になってくるのでございます。

次の初心は、ニューハーフデビュー後の2〜3年目といったところでしょうか。仕事にも慣れ、若さゆえの人気も絶好調でございましょう。ただ、この時分の絶好調は、それこそ先ほど申し上げたような「時分の花」。この若さゆえの人気を自分の本来の実力だと勘違いしてしまうと、その後、非常に苦労の多い人生を歩むことになるのでございます。この時期に、上手に鼻っ柱を折ってくれる人に出会えるかどうかが、結構キーポイントだったりいたします。

最後の初心は、40代〜50代で訪れる人もありますし、早々と30代に入ってすぐ訪れたりする人もございます。ニューハーフの多くに訪れる、「人生に迷う時期」でございます。自分が客観的に見えてきて、ニューハーフという特異なライフスタイルが心配になってくるのでございます。この時期は、やや人気が衰えてくる時期でもありまして、ニューハーフ本人をなおさら悩ましく思わせることになるのでございます。

この最後の時期には、「職を変える」「自分で店を出す」「裏方に徹する」「男に戻る」等の様々なイベントが起こるものでございます。人生が大きく変わりやすい時期でありまして、ニューハーフ本人にとっては、根本的な意識改革を求められる時期でございます。世阿弥言うところの初心でございますね。

ワタクシは、世阿弥の『風姿花伝』を二十歳の頃に読んでおります。若い頃に読んでいるから、それを自分の人生に実戦できたかというと、全然ダメ。人生というのは、なるようにしかならないもので、後から振り返って「なるほどね」と納得し、そして「最近の若い人は」と愚痴をこぼす。同様に人類は、そんなことを何百年も何千年もくり返してきたのでしょうね。ではでは...


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