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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2013-12-10 【『いのちの林檎』という映画を紹介いたします】

本日はですね、ちょっとフロントを変わってもらいまして、映画を観てまいりました。その映画のお話をしちゃうのでございます。

ドキュメンタリー『いのちの林檎』
 みなさま方、「化学物質過敏症」という病気をご存じでしょうか? 今や世の中は様々な化学物質で溢れかえっております。そんな化学物質に体が反応してしまい、アレルギー症状、発作などが起き、時には命にも関わる場合もあるという現代病でございます。この病気が厄介なのは、食品添加物のような化学物質だけではなく、芳香剤や整髪料・化粧品などのにおいなどにも反応してしまうことでございます。重症者にあっては、数十メートル離れた場所から漂ってくる、数億分の1に薄まった煙草の煙にも反応して、発作が起きてしまうそうでございます。

 この映画の主人公は2人。重症の化学物質過敏症に苦しむ「早苗」という娘さんと、無肥料・無農薬の林檎栽培に成功した「木村」という農家のおじいさん。「取材」という形を取りながら、カメラはこの2人を同時進行で追っていくのでございます。しかし、このふたつの線が、どこかで交わるわけではない。映画は坦々と、化学物質のない場所を求めて旅をする母娘と、過去の苦労話をする老人とを、平行線で描いていく。

 見ておりますとですね、「この平行線が、どのように交わっていくのだろうか」と期待するわけでございますよね。でも、ほぼ、最後まで、交わりません。早苗さんが水が飲めなくなったときに母親が見つけてきたのがこの無肥料・無農薬の林檎であること、その林檎で早苗さんが命をつないだことが、映画の終盤で説き明かされるのでございますが、その終盤までは、完全に平行取材という形で、映画は進行して行くのでございます。

 けれどね、早苗さんと林檎との結びつきは、すごくアッサリと表現されております。この映画には、そんな台本めいた「ストーリー」はかえって“邪魔”なのでございますよね。化学物質過敏症という病気が存在し、それで苦しんでいる人が大勢いること、化学物質をまったく含まない林檎の開発には17年もの歳月がかかり、1人の農家の涙ぐましい忍耐の結晶であること、この映画はそのふたつの事実を、何の演出も介さずに、ただ、ただ、客観的に描いております。

 この映画は、明からさまに何らかのメッセージを訴えたりはしておりません。ドキュメンタリーの有るべき姿として、事実を、ただひたすら客観的に映し出しております。ところが、一方で「化学物質から逃げる母娘」を描き、もう一方で「化学物質を含まない食品を作る困難さ」を描くことで、この化学物質過敏症に関わる問題の「出口の見えない深み」という強烈なメッセージを感じさせるのでございます。

 「化学物質に反応するのならば、化学物質を含まない食品を食べていればいい」と思う人がいるかも知れない。けれど、その化学物質を含まない食品を作るには大変な困難を伴うという逆説。単なる平行取材として見えたこの映画の2本の平行線は、実は強烈なパラドックスの裏表になっているのでございます。化学物質過敏症という病気をある一面からだけでとらえるのではなく、この様なパラドックスとして表から裏から描いていることに、この映画の監督さん、プロデューサーさんの思慮の深さを感じるのでございます。

 オフィシャルサイトの興業スケジュールを見ると、12/13(金)の名古屋での上映がスケジュール的に最後になっているようでございます。今後、どこかの映画館にかかるかも知れませんし、テレビの深夜枠で放送されるかもしれません。もし縁がありましたら、観てみて下さいませ。名古屋近郊で映画館で観てみようという方は、お気をつけ下さいませ。「名古屋・伏見ミリオン座」での上映は、12/11(水)、12/12(木)、12/13(金)とあと3日間しかなく、しかも13:10からの1日1回だけの上映でございます。

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