店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです
朝、松屋で食事をいたしまして、ふと散歩がてらに脇道へ入りました。いつの間に開店していたのでしょう、小さな本屋を見つけたのでございます。ぶらりと入っていきまして、しばらく書店の本棚を眺めておりました。たまたま、先日アカデミー賞で話題になった『つみきのいえ』という短編アニメのDVDと、それを絵本として書き下ろしたものがありましたので、買い求めてまいりました。
小さな書店というのは、店主の心根が分かって楽しいのでございます。書店というところは、配本される本をすべて並べるということは、棚のスペース的に難しかったりいたします。そこで、配本されてきた本を、店主が取捨選択し、売りたいと思うものは棚に入れ、いらないと思うものは棚に並ぶことなく返品されるわけでございます。小さな書店や古本屋といったところは、その取捨選択での店主の好みがはっきりと出たりいたします。また、本の並べ方にも思い入れがあったりして、リアル書店にはサープライズがいっぱいなのでございます。
さてさて、そのように、時々ブラリと本屋に立ち寄っては、衝動買いなどをしておりますが、今までで非常によい巡り会いをした衝動買いの絵本を、2冊ほど紹介いたします。絵本とはいいますが、大人が読んでも十分に鑑賞にたえるものでございます。
(偕成社、28×21cm、33頁、¥1,000)
全文ひらがなで、小さな子供さんでも読むことが出来る絵本です。何がすばらしいかって、「いわさきちひろ」さんの絵を全ページにわたって堪能できるということでございます。最後に海の泡となって死んでいく人魚姫の物語の裏側には、身分違いの女性に恋をし、惨めな失恋の末に人間不信になってしまった原作者アンデルセンの葛藤が込められているのでございます。子供のときには童話としか感じなかったお話も、大人になり原作者の生い立ちなどを知ると、その童話のまったく違って面が見えてきたりするものでございます。同様に、「みにくいアヒルの子」なども、アンデルセンの出生の身分を恨むような一面が見えてきたりいたします。曽野綾子版の人魚姫では、最後を次のような文で締めくくっております。「にんぎょひめは、あさひの ひかりの なかで あわに なって しずかに きえていきました。かなしみでは なく、ひとを あいした よろこびに つつまれながら、たかい たかい そらへ のぼっていきました。」
(バジリコ株式会社、21.5×15.5cm、52頁、¥1,000)
この本は、絵本というよりは普通の童話本でございます。この物語は細かい部分を省略されることが多いものでございますが、この本ではかなり厳密に訳されております。最初は面倒くさがっていたツバメも、しだいに王子のことが好きになり、そして愛するようになります。ツバメは南に帰る最後のチャンスがありながら、王子のそばに居続けることを選びます。王子の夢を叶えてあげたかったからでございます。もちろんそれはツバメにとっては「死」を意味するのでございます。そして最後に、ツバメを王子の唇にキスをし、死んでいきます。ボロボロになった王子の像は取り壊され、炉に入れられ溶かされてしまいますが、ひび割れたハートだけがどうしても溶け残るのでございます。そのハートはゴミとして捨てられるのでございますが、そのゴミ捨て場にはツバメの死骸も横たわっている...というところでこの物語は終わっております。この物語には、王子が街の人に与えた「万人多数への愛」と、ツバメが王子に想いを寄せた「個への愛」が含まれております。同じ愛でありながら、この二つの愛が大きな矛盾を抱いていることは、現代社会でも変わりありません。愛に苦しむ現代人が読んでも、共感の持てる部分が多いはずでございます。